XROBOCONとは
ついに始まった大阪・関西万博。筆者もすでに足を運んでおり、その魅力の虜になっている。
各国、企業等のパビリオンも興味深いが、期間中に開催される様々なイベントにも、万博ならではの楽しみなものが多く存在する。
NHKエンタープライズが主催する「XROBOCON」もその一つだ。
NHKエンタープライズは、高専ロボコンや学生ロボコン、小学生ロボコン等を主催しているNHKグループに属する企業である。冬になるとテレビ放送される高専ロボコンは長年お茶の間をにぎわせており、日本で最も知名度のあるロボットコンテストと言っても過言ではないだろう。
そんなNHKエンタープライズが新たに始動したプロジェクト。それが「XROBOCON」である。
2024年の高専ロボコン全国大会が閉幕したまさにその場でサプライズ的に発表されたそれは、大きな驚きをもって迎えられた。もちろん、筆者も驚いたうちの一人である。
XROBOCONの特徴のひとつが、「年齢制限が無い」ということである。既存のNHKロボコンには、高専ロボコンであれば高専生、小学生ロボコンであれば小学生といった具合に、年齢に紐づいた参加資格が設けられていた。
一方でXROBOCONには年齢制限がないため、現在NHKロボコンには枠がない中学生や、社会人でも参加が可能だ。
しかし、本当に誰でも参加が可能という訳ではない。年齢制限がない代わりに求められるものがある。
「基礎的な技術力」だ。
XROBOCONは「ロボット×AI×ゲーム」によって20年後を見据えた技術、技術者を育成することを狙いとしている。もちろん、既存のNHKロボコンにおいても、技術の進化に合わせて様々な最新技術が競技に取り入れられてきた。しかし、それらと比較してさらに一歩、まだセオリーと言えるような技術やノウハウが確立されていない領域にまで踏み込んでしまおうという気概を、筆者は事務局との対話の中で感じてきた。
ロボット、AI、ゲーム。各分野に強みを持つプレイヤー同士のコラボレーションによって新たな技術領域を開拓し、プレイヤーには「成長」を、観る人には「ワクワク」を提供するのが、XROBOCONの目指すところである。
筆者は以前、このXROBOCONについて事務局の方から詳しくお話を聞く機会に恵まれた。その時の内容をまとめた配信を実施しているので、XROBOCONについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひご覧いただけるとうれしい。
XROBOCON Insight Exchange カンファレンス 開催
さて、そんな第1回XROBOCONのゴールは、冒頭でも述べた、大阪・関西万博で開催される大会である。目下、それに向けて様々な準備が進められている。
2月末でエントリーが締め切られてから1週間余りが経過した3月9日。早速ひとつの動きがあった。
XROBOCON Insight Exchange カンファレンスの開催である。
エントリーしたメンバーが一堂に会し親睦を深めることを目的とした、いわば顔合わせだ。

会場となった渋谷区にあるNHKエンタープライズ会議室には、全国各地から40名あまりのプレイヤーが集まった。これまでSNS上でのエントリー報告などはあったものの、実際には誰がエントリーしているのか、プレイヤーには分からない状態だった。今回初めて、大会に向けた仲間、そしてライバルの正体を知ることになる。
なお、実際のエントリー数は約100名とのことだ。団体応募のため代表者だけが参加したケースや、都合が付かずオンライン参加となったケースがあったため、オンサイトに集まったのは上記の人数となった。
ここまでお読みになった方で、ロボコンにお詳しい方は「おや?」と思われたのではないだろうか。
大抵のロボコンではまずチームを組み、それから大会にエントリーする。しかし、XROBOCONは異なる。まず団体または個人でエントリーし、それからチームを組むのだ。
つまり、Insight Exchange カンファレンスの段階では、まだ誰と一緒にチームを組むのか、全く決まっていないのである(!)。
「Insight」は日本語で「発見」。「Exchange」は「交流」。これから大会に向けて、さらにはその先に向けて一緒に活動するチームメンバーを発見したり、ライバルにもなる仲間たちと交流することが、このカンファレンスの主題というわけだ。
そのためだろうか。続々とプレイヤーが集まる会場には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
運営からのメッセージ
プレイヤーに加えて、ルール制作に携わったメンバーも集まったところで、いよいよカンファレンスが幕を開ける。
まずは、事務局の吉田さんから改めて、XROBOCONの概要が説明された。

過去にも概要説明を聞く機会はあったのだが、その時とはスライドも説明もバージョンアップ。焦点や狙いがより明確に示された。XROBOCONという新しい取り組みが、大会に向けてより具体性と完成度を増しているのを感じられる。小さな変化ではあるのだが、ワクワクするポイントだ。
続いて、ルール作成に携わったメンバーからも、込められた思いなどが語られた。
「ぷよぷよ」や「はぁって言うゲーム」で知られるゲームクリエイターの米光一成さん、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社の簗瀬洋平さん、ソニー・インタラクティブエンタテインメントでtoioを開発されている田中章愛さん、HEROZのAIプロデューサー大井恵介さん、ワンフットシーバスの田中正吾さん等がご登壇。
その中から、米光さんと田中章愛さんのお話をご紹介したい。
米光さん「心してみんなでやろう!」
おそらく、こういった競技って初回の皆が一番面白い。初回の皆で作っていく感覚というのがすごくあると思う。心してみんなでやろう!
田中さん「日本でこんな大会ができてうれしい」
海外のロボット競技と日本のロボット競技には差がある。AIの活用では後れをとっていたので、今回AI×ロボットの競技が日本でできてうれしい。
私もロボットを作ってみたので良かったら見て欲しい。


このように、XROBOCONの運営サイドは、この新しい大会をプレイヤーと一緒に作り上げていきたいという姿勢を鮮明にしている。カンファレンスに至るまでに各プレイヤーと個別の面談を実施したり、そこでのやり取りを踏まえてルールを大きく変更するなど、具体的な成果も現れている。
ロボットコンテストの現場では、運営とプレイヤーがルール解釈等をめぐってバチバチに戦うような光景がしばしばみられるが、XROBOCONはそれとは異なるアプローチを取ろうとしている。この関係がどのように発展していくか、そしてそこから何が生まれるのかも今後の注目ポイントだ。
いよいよプレイヤーの番に
改めてになるが、XROBOCONは「ロボット×AI×ゲーム」がテーマのロボコンである。それに基づいて考案された今大会のルールは、リアル空間のロボットとシミュレーション空間のロボットの連動が求められる内容になっている。いわゆる、sim to realやデジタルツインと呼ばれる領域の技術だ。
つまり、単に物理的なロボットを作るだけでは競技ができない。プレイヤーには、Unityを使ったバーチャル空間や、バーチャル空間でロボットをコントロールするAI、それらを魅力的に見せるためのキャラクターやUIの作成も求められる。
既存の高専ロボコンや学生ロボコンでは、機構班(メカ)、回路班(電気)、制御班(ソフト)が協力してロボットを作り上げるが、その人材だけでは足りないということだ。

というわけで、会場には多様な技術的バックグラウンドを有する人材が揃った。
筆者は事前に、ロボコン経験者が多く参加しているとの情報を得ていた。そのため、プレイヤー同士は知り合いというケースがそこそこあるのでは無いかと予想していたのだが、どうやら外れたようだ。面識があったのは数組だけで、ほとんどは初めましてという状態。
20代のプレイヤーが中心だが、下は中学生、上は40代と、年齢的にも幅広い。
近年、様々なロボコンで新たな参加者の獲得等を目指し、これまでとは違う年齢層を対象としたリーグの設置を行う動きが活発になっている。そのため、ひとつの大会の中に子供から大人までが揃うという光景はそこまで珍しいものでは無くなっている。
しかし、大きく年代の離れたプレイヤーがチームを組み、ひとつのロボットの製作に取り組むのはかなり珍しいことだと言えるだろう。筆者は、親子でチームを組んで臨んでいたケースなどを除いて見たことがない。
また、それぞれの居住地もバラバラだ。ロボットを製作するためには当然ながら、すべての部品を一箇所に集めなければならない。活動場所はどう確保するのか、メンバーはスケジュールを合わせられるのか、輸送はどうするのか……課題は尽きることが無いだろう。
正直なところ、筆者にはこれをマネジメントしきる自信はない。先端技術が求められるロボットシステムを開発するだけでも大変なのに、初めて会った者同士でチームとして機能していかなければならないのだ。XROBOCONがいかに大変な競技であるか、読者の皆さまにも伝わっただろうか?
にも関わらず、各プレイヤーが話を進める会場内は、熱気で溢れていた。前に出て話す姿に、真剣な眼差しが注がれる。
カンファレンスでは、各プレイヤーが自己紹介とアイデア発表を行う。
今回の競技をクリアするための、様々なアイデアが披露された。ルールを分析し、勝負ポイントを絞った戦術。移動機構、段差の昇降機構について。唯一、人が操作可能なボタンの使い方。観客にアピールするためのグラフィックについてなどなど。
共感を集めたもの、驚きをもって迎えられたもの、笑いを誘ったもの。それぞれのアイデアに対して、そこかしこで小さな議論も起こった。自分たちのプランに取り入れられないか、それを応用したこんなアイデアはどうだろうか、と。
まだ具体的なモノどころかチームすら無くとも、彼らのロボット開発は既に始まっているのだ。
個性が光るプレイヤーたち
折角なのでここで、2名(組)のプレイヤーをご紹介したい。
大人だって負けてない!
今回、筆者が把握している中で最年長だったのが、40代後半、ご職業はエンジニアという方だ。その道20年以上のエンジニアともなれば、すっかりベテランの領域と言えるだろう。
そんな百戦錬磨のプロがどうして今、XROBOCONにエントリーしようと思ったのか? お話を聞いてみると、2つの理由があることが分かった。
1つ目は自らの技術的な興味から。新しい技術は触ってみたいのがエンジニアの性。とはいえ、設備や資金の問題もあり、何でもかんでも触れるというわけではない。Sim to Realという最新技術に触れる機会を逃す訳にはいかない。ニュースサイトで偶然見かけたXROBOCONに飛びついた。
2つ目はNHKロボコンへの憧れから。工業高校や大学の工学部などに進学する人は大勢いるが、その中でロボコンに参加する人はほんの一部だ。ロボコンに参加したくとも、そういった部活が無い、メンバーが集まらないなど、様々な理由で断念せざるを得ないこともある。そんな方にとって、今回のXROBOCONは夢を叶える大チャンスとなった。
ロボコンの経験では若者に負けても、人生の経験値は圧倒的。ベテラン達の活躍からも目が離せない。
高専の総力を結集!
参加者の中で多くを占めるのが、高専ロボコンや学生ロボコンのOBである大学生や大学院生だ。
今回のルール、テーマに合わせて様々な技術を持つメンバーを集めてきたチームがあった。同じ高専の同期で構成されたチームには、機械担当、回路担当、制御担当に加えて、UI設計のため映像制作の経験を持つメンバーが加わる。ロボット1台仕上げるのに必要なメンバーを見知った仲間から集めることができるのも、ロボコンOBの強みと言えるかもしれない。
しかし、そんな彼らにも困っているポイントがあった。シミュレーション、そしてAIとの連携だ。近年の高専ロボコンでは画像認識などにAI技術を活用するケースが見られるが、意思決定などの大域的な分野は人間が担うのが基本だ。
話を聞いたプレイヤーは、他のロボット競技の事例を書籍などから集めて活かそうとしていたが、とはいえ未知の分野。XROBOCONでその分野の経験者と組めることにも期待を示していた。
初めてロボット製作にチャレンジしたのは高専に入ってから、というロボコニストは少なくない。それでも半年程度の時間でロボットを完成させて大会に出場してくるのだ。とんでもない学習、成長速度である。
だからきっと今回も、新しい技術をマスターしてすごいロボットを見せてくれるはずである!
期待!
夏、万博にて!
このように、個性あふれるプレイヤーが揃ったXROBOCON。このカンファレンスの時点ではまだチームも組まれていなかったが、質疑応答コーナーでは実際にロボットを作ることを想定した、細部にまで踏み込む質問が多く登場。議論は予定時間をオーバーし、めっちゃくちゃ盛り上がった。
現在はカンファレンスに集まったメンバーが4つのチームに分かれ、ロボットやAI、UIの開発を進めている。大会まであと4か月、長いようで短い開発バトルだ。
これを読まれた読者の皆様には、ぜひぜひぜ~~~ひ! 大会本番を見に来て頂きたい!!!!
というわけで、開催概要を以下にまとめた。
【第1回 XROBOCON 開催概要】
場所:シャインハット(大阪・関西万博会場内)
日時:2025年8月26~27日 14:00~17:00(予定)
コンテンツ:
①高専ロボコン、学生・ABUロボコン、DCON、神ゲー創造主エボリューションのデモンストレーション
②「ロボティクス × AI × ゲーム」の融合をテーマにしたコンテスト「XROBOCON」
③上記に関連したブース展示(10:00~17:00)
主催:NHKエンタープライズ
後援:一般社団法人日本ディープラーニング協会、一般社団法人全国高等専門学校連合会
会場となるシャインハットは、金ピカの庇(ひさし)が特徴的な円形劇場スタイルのホール。先日筆者が万博に行った際に中を見ることができたので、その写真を紹介する。



また、XROBOCONだけでなく、既存のNHKロボコンなどについてもデモがあるとのこと。万博は様々な未知に触れることができる素晴らしい場であるが、XROBOCONもまたそのひとつとなるだろう。残念ながら平日開催ではあるものの、学生のみなさんは夏休みというケースも多いはず。ロボット、そしてロボコン、テクノロジーに興味のある皆さんにとって、素敵な出会いとなるイベントになるのではないだろうか?
なお万博内のパビリオンやイベントは事前に予約が必要となるものが多くある。この競争が中々熾烈ではあるのだが、本イベントについてはどのような扱いになるのかまだ発表されていない。今後新たな情報があればお伝えしていきたい。
XROBOCON公式サイト:https://www.xrobocon.tech/
XROBOCON公式X:https://x.com/xrobocon
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